「新生インド」の誕生

いよいよモディ政権がスタートした。一介の州首相が全国区の首相となるのは難しいのではと懸念する人たちもいたが、今やそういった声は聞かない。政権発足後の大型案件、国家予算案は無難なものだった。大向こうをうならせるような派手な提案は無く、一部の評論家からは物足りない予算との批評すら浴びた。それで良いのではないかと思った。もう大げさな立ち回りは必要ない、有言実行あるのみというのが結論だ。これからは地道に一歩一歩事を進めるだけだ。 手始めに閣僚の数を減らし、集約できる省は一つにまとめた。端的な例がゴエル(Piyush Goel)国務相だろう。彼の担当する省は電力、石炭と新・再生可能エネルギーだ。エネルギー部門を統括し、首相に直結する。インドにとってエネルギー問題の解消が外資導入、産…

一夜明けて-インド国家予算の受け止め方-

5月の総選挙でインド人民党(BJP)が地すべり的勝利により30年ぶりとなる単独政権を獲得、その余勢を駆った予算発表だったので、期待値は相当高かった。ジェイトリー財務相も相当気合が入って(緊張して)いたようだ。20年以上も予算発表を見てきたが、予算案説明中に頻繁に水を飲み、5分間の途中休憩を希望し、再開後は着席して予算案の説明をする(通常は立ったまま最後まで行う)、というような光景は見たことがない。チダンバラム前財務相などは約1時間半、立ったまま滔々と予算案をまくし立て、その間にジョークも交えるという、火の打ち所の無い仕振りだった。見方を変えれば、ジェイトリーは泥臭く、その分なんか親しみが涌き、中身を持った(マジでやろうとしている)予算案のような印象を残した。一方、チダンバ…

2014年度インド国家予算 国会上程日

モディ首相初の国家予算がアルン・ジェイトリー財務相により発表になりました。ポイントだけお伝えいたします。ご質問ありましたら御連絡ください。 総論:『やるべきことをやる予算』投資と諸制度の改革(正常化)を並べた普通の予算。ただ、実行できたら優良予算となる。有限実行できるか、モディの手腕が問われる。 1.経済成長関連 世界経済の回復基調が見て取れる。インドのGDP成長率を数年かけて7-8%に戻す。 2.予算規模 歳出合計17兆9千億ルピー(約33兆円。日本の国家予算の約1/3) (注)1ルピーは約1.85円) 3.投資関連 ①製造業とインフラ整備に注力→高速や一般道路建設に3,750億ルピーを投資 ②灌漑用水整備に100億ルピーを配分 ③新港湾事業に1,164.4億ルピーを配…

「変革と成長」―モディに与えられた60カ月

今回のインド総選挙では投票が開始される直前、ある若いIT技術者がツイッターに「間抜けな政治家(ラフル・ガンディー)より、殺人者(注1)であっても彼(モディ)を選ぶ」と書き込んだ。インド国民が今望んでいるものをこれほど明確に表現したものはない。汚職と腐敗にまみれたインドの政治体制を変革し、成長をもたらしてくれる指導者はモディ以外にはいないということだ。この二つ(変革と成長)が今後のモディの政治活動を読み解く上でのキーワードになる。 モディは選挙戦中に「60カ月くれ(注2)、変えてみせる」「国民会議派は60年やったが、インドを変えることが出来なかった」と熱弁をふるった。10数年間の施政でグジャラート州をインドきっての産業発展モデル州にした手腕を以ってすれば国政を治めることも可…

モディはインドを変革する起爆剤になれるか

半年前(2013年10月)の各種世論調査ではインド人民党(BJP)が第1党になる予想は出ていたが、友党も含めた国民民主同盟(NDA)全体での予想獲得議席は186議席程度と過半数(272)には手が届かなかった。しかし、昨年12月にモディがBJPの正式首相候補に指名されると状況は一変、モディ・ウエーブがインド全国を吹き荒れることになる。その結果、2月22日にインドのウエッブサイトに出たニールセンの世論調査では、NDAが236議席と、92議席の統一進歩同盟(UPA)を引き離し、NDAの過半数取得が視野に入ってきた。ここまでくると、地方の弱小政党が勝ち馬に乗れと、NDA陣営に鞍替えする可能性も出てくる。 モディはビジネスジェット機を使い全国津々浦々を遊説、変革がインドの窮状を救う…

インド復活へのシナリオ―インド国民が下した審判

1947年に独立を果たしたインドは1991年に経済破綻し、それまでの社会主義的混合経済とは真逆な経済自由化の道を選んだ。その後、それなりの経済発展を成し遂げるが、ここ数年経済は失速しその輝きを失いつつある。このままではインドの復活は望み薄だ。ではその根底にある問題とは何なのか。突き詰めていけば、木に竹を接いだような社会構造に立脚した政治・経済体制にあると言わざるを得ない。 従来のままの経済体制の土台の上に、マーケットオリエンテッドな自由主義経済の構築は馴染まない。労働法をはじめとした古色蒼然たる法律の下で、いかに経済自由化による経済発展を声高に叫んでみても、空しい。国民のためと言いながら、国民を愚弄し搾取する政治屋が跋扈している国の発展は望み薄だ。 ではそういったインドの…

多極性人間の選挙戦術-ヒンドゥー至上主義とビジネスの顔

モディ・インド人民党(BJP)首相候補は2年前、米週刊誌TIME(南アジア版2012.3.16付)の表紙を飾った。そのときのキャッチフレーズが「MODI MEANS BUSINESS(ビジネスの具現者モディ)」だ。モディは大学に行かず、17歳で家を出てBJPの支持母体でもあるヒンドゥー至上主義組織「民族奉仕団(RSS)」に加わった。彼ほど多極的な側面を持つ人間はいない。ヒンドゥー至上主義者でありながら、事ビジネスに関しては無宗教派と化す。モディが州首相を務めるグジャラート州最大の都市アーメダバードから車で20分程北に位置する州都ガンディナガールまで舗装された直線の高速道路が延びる。モディにしてみれば、高速道路は真直ぐでないといけない。その道路建設に当たり、道をふさぐ小規模…

インド国民、積年の課題への回答

1960年代前半、私が高校生のころ、イギリス政界を揺るがしたスキャンダル「プロヒューモ事件」が起こった。当時イギリス陸軍相だったジョン・プロヒューモは保守党の重鎮で英国紳士、既婚者であったが、パーティーで知り合った自分の娘のような歳の踊り子(当時19歳)と性的関係を持ち、それが暴露された。その踊り子は駐英ソ連大使館付海軍武官のイワノフ大佐とも関係があったとされ、軍事機密漏洩の噂が出るに至りプロヒューモは辞任、世紀のスキャンダルにイギリス議会は混乱に陥った。結局、マクミラン首相は1963年10月に辞職、翌1964年の総選挙で保守党は労働党に敗北を喫した。 冒頭から下半身の話で恐縮だが、この事件の示唆するところは、現在のインドに通じるような気がする。即ち、密室で行われ、特定の…

つかぬ間のハネムーン?

昨年12月上旬の5州議会選挙、特にニューデリー準州(首都圏)議会選で結党後約1年の新興政党「庶民党」が彗星のごとく現れて、総議席70の4割、28議席を獲得するという離れ業をやって退けた。しかし、過半数を獲得できなかった党首のアルビンド・ケジリワルは、43議席から8議席へと壊滅的打撃を受けた国民会議派と手を組み組閣、ニューデリー準州首相となった。「庶民党」が掲げたスローガンはただ一つ「反腐敗」。民意の代弁者となったケジリワル準州首相は既に時の人となっている。 しかし喝采を浴びたケジリワルのその後に、腑に落ちないことが続出している。庶民党躍進の背景には、2002年12月に成立した「情報自由法(Freedom of Information Act)と、昨年12月に成立した「腐敗…

「起こり得ないこと?」への恐怖と期待

昨年12月8日に開票されたインド5州の州議会選挙のうち、デリー準州の結果が驚きをもって迎えられた。70議席のうち43議席を誇った国民会議派が8議席と惨敗し、結党後1年足らずの新党アーム・アードミ党(Aam Aadmi Party=AAP:庶民党)が28議席を獲得、32議席を獲得したインド人民党(BJP:前回23議席)に次ぐ第2党となった。国民会議派の支援を受けたAAP党首のアービンド・ケジリワルがデリー準州の首相に就任した。彼には首相候補として次期総選挙に出馬すべしとの声も上がっている。 国民会議派にとっては悪夢のような現象だろう。この結果が今年4-5月に予定されている総選挙に影響を及ぼしたら、同党は壊滅的打撃を受けること必死だ。事ここに至っても事実を事実として認め、それ…

ラフルが変わる? 本当だったら、凄いことになる?

12月21日(土)、与党国民会議派No2.のラフル・ガンディーがFICCI(インド商工会議所連合会)の年次総会で演説した。8カ前の4月にはCII(インド工業連盟)の年次総会でも1時間弱しゃべっている。まるで別人だ。無精ひげを生やして、インド経済などどこ吹く風で、社会派を唱えるがごとく哲学的論陣を張り、ビジネス界の重鎮を煙に巻いたラフルは何処に。 ひげをそり落としてさっぱりした精悍な面構えと落ち着きは、40歳を過ぎても小僧のようにチョコチョコ動き回り、頼りにならない木偶の坊のようだった8カ月前がウソのようだ。同じ人物とは到底思えない。インドが抱える最大の問題点は「蔓延している腐敗と規則無視の恣意的権力行使」と断言した。州首相や環境大臣などが好き勝手をやっており、そのため許認…

まだ仰っている-マンモハン・シン首相とソニア・ガンディー国民会議派総裁

シン首相は昨日、「2014年の総選挙をあきらめるな。出来る約束だけせよ」と発言している。それに合わせ、ガンディー国民会議派総裁は「今回の州選挙惨敗の原因の一つが規律と結束の欠如」と述べている。 http://www.indianexpress.com/news/make-promises-that-can-be-fulfilled-says-pm–sonia-asks-congmen-to-buck-up/1209054/ 何故このように使い古された表現しか出来ないのだろうか。出来ない約束をしてきた結果が今回の州議会選挙で示された民意であるとすれば、民意を汲み取ることが先ではないか。即ち、繰り返される汚職や犯罪、後手に回る対応策。何故そうなるのか、そういった諸…

そうでしょう、金利を上げても物価は下がらない-インド中銀金融政策レビュー

昨日(2013.12.18)のインド中央銀行(RBI)政策レビューで、大方の予想を裏切りラジャン総裁は金利据え置きを決定した。物価上昇の諸悪の根源が食料品、特に野菜、穀物類の値上がりで、その根底にあるのが貧弱なインフラ(未整備な流通網や貯蔵施設)だとすれば、これ以上の金利引き上げを行い、車や家電などの耐久消費財の販売に打撃を与えることは自滅の道だったのだから、当然といえば当然の対応だった。 恐らく中央政府(国民会議派)からも、来年5月までに予定されている総選挙を睨み、これ以上の経済的もたつきは止めろとのプレッシャーが掛かったのだと思う。低迷するビジネス環境に苦しんでいる経済界も大歓迎だ。 だとすれば、ラジャン総裁も「現在高水準に達しているインフレの短期動向を見極め、米連邦…

州選挙惨敗、国民会議派のやるべきことは

「我々に欠けていたものは何だったのか、真摯に反省すべきは反省したい」。12月8日に開票された5州議会選挙で壊滅的打撃を受けた国民会議派のソニア・ガンディー総裁の弁だ。彼女はまだ分かっていないのか、それとも私の考え方が浅薄なのか、と思った。腐敗にまみれ、犯罪行為までしておきながら「自分の目の黒いうちには裁判だって終らないだろうから、適当に甘い汁を吸い続けられる」と、ほくそ笑む多数の国会議員を抱え、そうした彼らに囲まれながら改革を訴えたところで、最早民衆、特に若年層は動かせない。傷口が広がるだけだ。 反省する時期はとっくに過ぎている。今はより明確な判断を下すときだろう。すなわち、従来の万民受けする口先だけの政策提言を糊塗したバラマキ政策は完全に間違っていた。国の経済や国庫を疲…

これほどまでとは!国民会議派ぼろ負け-4州議会選挙結果発表

来年4-5月に予定されている総選挙の前哨戦といわれた4州(注)の選挙結果が出た。中央で政権与党の中核である国民会議派の凋落には目を見張るものがある。 やはり、「衆愚政治の終わり」が始まったのだと思う。民を愚弄し、私腹を肥やすことだけに腐心している政治屋(政党)にインドの将来は任せられない、との国民的判断だろう。インドの友人が言っていた。中産階級の下の人たちには貯蓄する余裕すらなくなっているという。4,5年前は、2,3万ルピーの月給で多少の貯金が出来たが、今は暮らしていくので精一杯だそうだ。 インド人民党(BJP)のモディ首相候補(現グジャラート州首相)は自党の圧倒的勝利に酔っているわけにはいかない。「空虚な約束だけをする政党(国民会議派)ではなく、約束したことはやる党(B…

プロミセス、プロミセス─空手形乱発の行く手は

11月中旬のインド出張で偶然にも面白いTV番組をみた。「インドは今後どう変わるか、変われるか」といったことを議論するもので、出演者はインドを代表する財閥、リライアンス兄弟の兄ムケシュ・アンバニや2012年にラタン・タタがタタ・グループの会長職を辞してからはインド財界を代表する「顔」と言われるマヒンドラグループの若き御曹司アナンド・マヒンドラなど5名だった。インド出身でペプシコ最高経営責任者(CEO)であるインドラ・ヌーイ氏のスタジオ・インタビューもあったが、この番組では2つの発言が印象に残った。アナンド・マヒンドラは、「インドを変えられるのは旧態依然とした汚職まみれの政治家ではなく、将来を担う若者だ」と主張。「彼らこそが新しいインドを創り出す」と言明していた。 一方のヌー…

より「カエサル」的なのは?

イタリアの高校の歴史教科書には、「指導者に求められる資質は次の5つである。知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。ユリウス・カエサルだけが、このすべてを持っていた」とあるらしい。 塩野七生さんがこれをもとに、読者に息抜き用の「遊びのすすめ」を薦めている。インドに当てはめると、来年5月に予定されている総選挙で一騎打ちと目される国民会議派副総裁のラフル・ガンディーとインド人民党(BJP)から首相候補として指名されたグジャラート州首相のナレンダラ・モディの比較が面白そうだ。 まず、知力と説得力の比較をしてみたい。ラフルは自陣営に属していると思われる人たちに対して、病を押して政務に励む母親(ソニア・ガンディー国民会議派総裁)をたたえ、暗殺され非業の最期を遂げた…

今、シヴァ神が必要なわけ

9月中旬商用でインドにいた。時間ができたのでマルチ・スズキのバルガバ会長宅でいろいろお話を伺った。その際、同氏は語気を強めて「シン政権は機能不全だ。インド経済復活に向けた具体的施策が打てていない」と憤慨されていた。失速する経済を横目に、出てくるのは政官界の汚職スキャンダルや目を覆いたくなるようなレイプ事件などの社会問題。それに加えて来年5月に予定されている総選挙目当てのバラマキ政策。国を富ますどころか、窮地に陥れることばかりだ。こんなことではインド経済の復活など夢のまた夢。これほど現状否定をするバルガバ氏の口ぶりも珍しい。 1週間ほどの滞在期間中に話ができたのは主として中間層以上のビジネスマンだったので、ある程度偏った見方になっているかもしれないが、総じて言えば、「今は政…

いつか来た道?

インド経済が低迷し続け、4-6月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比4.4%と10年ぶりの低成長を記録、政府が望む8%前後を大きく下回っている。また、米連邦準備制度理事会(FRB)の米国債買い入れ額縮小懸念からルピーが売られ、年初から20%も下落している。その結果、原油を代表格とする輸入物資の価格上昇につながり、経常収支赤字も対GDP比で4.8%と、これまた10年ぶりの高水準となった。外貨準備高も大幅に減少してきている。その一方で消費者物価指数(CPI)は2桁に近い高値で推移している。 この期に及んでも国民会議派率いるUPA政権は恥も外聞もなく、来年5月に予定されている総選挙を睨んだバラマキ政策を実施している。その代表格が国家食糧安全保障法だ。物価が上がり苦しむのは…

新たな実験の時

ノーベル経済学賞を受賞している唯一のアジア人、インドのアマルティア・セン教授(ハーバード大)と同教授同様に著名な経済学者であるインド人のバグワティ教授(コロンビア大)の論争がインドの主要紙面をにぎわしている。事の発端はセン教授が「少数派(マイノリティ:ムスリムなどを指す)に懸念や恐れを感じさせるような人物は首相になってもらいたくない」と発言したため。それに食ってかかったのが、グジャラート州の経済発展モデルこそインドが目指すべきものとして、モディ同州首相を絶賛しているバグワティ教授。 どちらの教授の考え方に与するか、などとくちばしを挟むつもりはないが、今回の論争はインドが持つ根本的な課題を浮き彫りにしてくれている。一方は社会的弱者救済を主眼とした思想であり、他方はインドの高…